シリーズ抵抗補正

活性化速度が早いイオンチャネル電流測定ためのシリーズ抵抗補正は、固定電位の誤差を無くし電位固定の精度を向上させます。すべてのSophion製パッチクランプ用アンプは、最大100%のRs補正を可能にする特許技術を採用しています。さらに、Sophionのアンプには自動クリップ検出機能が搭載されており、致命的な発振による細胞の損失を防ぎ、高品質記録を維持しながらデータ取得のスループットを向上させます。

  • クランプ精度を向上
  • 特許済みアルゴリズムを使用した最大100%のRs補正
  • 自動クリップ検出により、高品質の記録を維持しながらデータ取得のスループットを向上

SophionのRs補正およびクリップ検出の詳細については、こちらのアプリケーションレポートとポスター、または以下をご参照ください。

Rs補正とクリップ検出機能のために設計されたSophion製アンプ

電位固定によるホールセル記録を行う際、膜電位はユーザ指定の任意の電位に制御または固定されます。 コマンド電位は、いわゆるアクセス抵抗があるため膜電位に直接変換されず、電位誤差が生じます。 アクセス抵抗は、電極基材に形成された開口部と、細胞膜に開けられた穴によって生じる抵抗で構成されます。これらの総抵抗値は、電気的には膜抵抗と直列に存在します。したがって、直列(シリーズ)抵抗(Rs)と呼ばれ、正確な膜電位を得るための「障害」となります。

シリーズ抵抗はホールセル記録に対していくつかの影響を与えます。まず、補正できる時定数がどの位になるかによって、補正がどれほど良好かつ迅速に行われるかが限定されます。目的となるイオンチャネルの真の性質を記録するのか、アンプの設定によって自ら制限をかけるのか、それともアンプの能力によって制限を受けるのか。例えば、ナトリウムチャネルのように高速なチャネルを記録するときには、アンプの作動速度は測定するチャネルと同等に高速である必要があります。

高品質の測定を維持しながらデータ測定のスループットを向上

アンプの電子回路の動作速度は数μsのスピードがあるので、それ自体が決定的な制限要因ではありません。一方、アンプのRS回路ループでは50 μsよりも大幅に遅くなる可能性があります。Sophion製のアンプは、Adam Sherman(米国特許第6163719号、US6700427B1)によって開発された特許技術を利用し、独自のアルゴリズムが特徴です。さらに、自動クリップ検出機能を装備しているため、Rs補正回路を一時的にオフにして、致命的な発振による細胞の損失を防ぐことができます。 次のスイープでRs補正が再度有効になり、解析時にはクリッピングが発生したスイープを自動的に削除します。自動クリップ検出により、高品質の記録を維持しながらデータ記録のスループットを向上させます。

標準および高速シリーズ抵抗補正

Sophion製のQPatchアンプは、標準および高速の2つの異なるシリーズ抵抗補正アルゴリズムを搭載しています。一方Qubeアンプは、高速シリーズ抵抗補正のみを搭載しています。標準シリーズ抵抗補正はシリーズ抵抗を補正すると同時に細胞膜容量もえ補正することができます。ただし、これにはマイナス面もあり、Rs補正の時定数は400 μs以上にしか設定できません。高速シリーズ抵抗補正は、理論的には最速2 μsの時定数に達するまで、より高速にシリーズ抵抗を補正することができますが、細胞膜容量補正の機能欠如が代償となります。しかし、イオンチャネル測定に干渉しうる細胞膜容量は、いずれもリーク補正によって除去することが可能です。

細胞膜にはコンデンサの性質があり、このコンデンサに充電する際の時定数は、シリーズ抵抗に細胞膜容量を掛けることによって得られます。10 MΩのシリーズ抵抗と15 pFの細胞容量がある場合、時定数は150 μsとなります。経験則によれば、平衡に達するにはおよそ6〜7倍の時定数が必要であり、ナトリウムチャネルの動態を捉えるにはあまりにも遅くなってしまいます。一方、時定数をはるかに上回って充電すると、電流応答が発振してしまう危険性があります。このような発振を防止するために、補正の割合を例えば 80%程度に抑えなければなりません。シリーズ抵抗のもう1つの側面は、Rsによる電位誤差が電流とともに増加することです。10 MΩのシリーズ抵抗に3 nAの電流が流れる場合、30 mVの固定電位の誤差が生じます(Sakmann、Bert and Neher、Erwin、Single channel recording、第2版、New York、1995)。 SophionのRs補正は、最大100 mVまでの電位誤差を処理できるように設計されています(10 MΩのRsに10 nAの電流が流れる場合)。