専門家ではない方へ イオンチャネルスクリーニングとは

 

イオンチャネルはタンパク質からできており、すべての生物のすべての細胞膜に存在しています。 また、イオンチャネルは細胞内や細胞間の電気的なシグナルを伝える役割を担っています。 このシグナルはイオン(すなわち「塩」)によって伝達されますが,イオンは通常、細胞膜を通過することができまず、イオンチャネルがある状態に応答して開口するとき、シグナルはエネルギーを消費することなく受動的にチャネルを通過して拡散します。 この電気的シグナルの伝達は、すべての生理学的プロセスにとって重要です。

このプロセスの例として下記の内容があげられます。

  • 神経における電気的活動の発生
  • 心臓および筋肉の収縮活動の制御
  • 栄養素の取り込み
  • ホルモンの分泌

イオンチャネルにはたくさんの種類があります

一般的な細胞には、異なるタイプの100〜1000個のイオンチャネルが存在します。 ほとんどのイオンチャネルは、1つの特定イオンのみを通します。 これは、イオンチャネルの一般名、例えばK+、Na+、Ca2+およびClイオンチャネルの表記に反映されています。 ヒトゲノムの配列解明により、近年400を超えるイオンチャネルの識別につながったとされています。 しかしこれまでに約100種類のイオンチャネルしかクローン化されておらず、機能が評価されていません。

イオンチャネルは多くの疾患を引き起こす原因とされています

病気による痛み、てんかん、嚢胞性線維症および様々な神経や筋肉障害などの疾患は、イオンチャネル機能の欠陥によって引き起こされています。

多くの医薬品がイオンチャネルに影響しています

イオンチャネルによって制御されている様々な生理学的プロセスや多くの疾患を引き起こす現象が、創薬における標的としてのイオンチャネルに対する関心を大いに高めています。 現在、登録されているすべての医薬品の約20%がイオンチャネルへ影響しています。 医薬品がある特定のイオンチャネルの働きを調節することにより、結果として細胞の挙動が変化します。

イオンチャネルを研究することは難しいことです

イオンチャネルは創薬の重要な対象となりますが、それを研究することには困難も伴います。 多くの研究努力を重ねても、イオンチャネルの機能そのものや特定の疾患との関連性など,得られる情報は限られます。 これは主に、イオンチャネル研究に利用できる技術の制限とその複雑さが関係しています。このためイオンチャネルは、他の研究分野と比較すると、ほとんど未開発な分野であると考えられています。

イオンチャネルを研究する方法

イオンチャネルを研究する主な方法は、直接法と間接法の2つがあげられます。直接法は「パッチクランプ法」と呼ばれています。 簡単に説明すれば、従来のパッチクランプはとても正確ですが、スループットが低いために結果を得るのに多くの時間がかかります。一方の間接法はあまり正確ではありませんが、直接法よりも時間がかからず早く結果が得られます。

直接法 – パッチクランプ法

パッチクランプ技術は、イオンチャネルの研究分野においてゴールドスタンダードとみなされています。この技術は1970年代にエルヴィン・ネーアー(Erwin Neher)とベルト・ザクマン(Bert Sakmann)によって開発されました。彼らはパッチクランプ技術でノーベル生理学・医学賞(1991年)を受賞しています。従来のパッチクランプ実験では、電極を内蔵した微少なガラスピペットが細胞膜に接着してしっかりしたシールを形成し、その後ガラスピペットを介して強い陰圧を与えて吸引することで細胞膜を破ります。イオンチャネルを通る微小電流(10-12〜10-9 アンペア)は、アンプに接続された電極を介して測定することが可能になります。通常は1日あたり3〜10回のパッチクランプ実験で成功例が得られる程度のスループットですが、そのためには根気と電気生理学に関する高レベルの技術が必要です。

イオンチャネル研究に用いられる間接法

イオンチャネルを研究するための間接法はいくつかあります。多く利用されている間接法は蛍光色素を使用したもので、色素を細胞に導入し特殊なプレートリーダーで分析します。プレートリーダーは、イオンチャネルの活動によって生じる特定イオンの濃度変化や、イオンチャネルを流れるイオンによってもたらされる細胞膜電圧の変化を検知します。これら間接方の主な利点としては、スループットが高く、1データあたりのコストが低いことがあげられます。また、主な欠点としては精度と感度が低く、細胞膜電位を制御することがあげられます。このため、適用可能な対象が特定のイオンチャネルのみとなり、イオンチャネルと医薬品のごく単純な相互作用に限られます。

自動パッチクランプ技術

QPatchは、Sophion製品群において中程度のスループットを目的とする自動パッチクランプシステムのであり、Qubeはハイスループット用に開発された最新のシステムです。 QPatchとQubeによるパッチクランプ実験では、プレナー電極と呼ばれる平面「ガラス」上において、「ゴールドスタンダード」と言われるマニュアルパッチクランプと非常に近い状態で、細胞とアンプとの間の接続構造を形成します。 QPatchとQubeは自動的に動作し、高度な並列処理によってパッチクランプ実験のスループットを向上させます。

すなわち、QPatchとQubeは、従来のパッチクランプ法の精度と間接法の高スループットを併せ持っている製品です。

創薬プロセスの要約

製薬企業における創薬プロセスは、特定の目的(例えば特定のイオンチャネル)、また特定の疾患とそれらを調節する治療標的の探索から始まります。 ひとつの重要な標的の種類には、イオンチャネルが含まれます。標的が検証されると、標的との相互作用を測定するための試験システム(アッセイ)が開発されます。製薬会社は巨大な化合物ライブラリーを所有しており、多いとことでは、その数は数百万化合物に及びます。これら化合物の中から小数が、特定の標的に対して期待する作用を持つ、いわゆる「ヒット」化合物になります。このヒット化合物から、見いだされた分子を化学的修飾によって薬物として望ましい形に変えていきます。このプロセスは繰り返され、リード化合物の最適化と呼ばれます。化学的装飾を施すたびに、新らたなパッチクランプ試験により、求める作用が維持されたか、もしくは以前より改善されているかを確認する必要があります。新薬を上市するためには、保健当局の承認を得る前に、疾患動物モデルを用いた更なる試験や安全性試験を実施し、その後臨床試験(ヒトにおける試験)へと進みます。

ヒット化合物を見つけることは、乾草の積まれた山の中で針を見つけることのようなものです! 過去20年間、最初のヒット化合物を見出そうとする製薬会社は、いわゆるハイスループットスクリーニング(HTS)部門において、化合物ライブラリー全体またはその一部を間接法で繰り返し試験をしてきました。