Sophion研究助成金受賞者のDr. Şerife Yerlikayaは、コペンハーゲンにあるSophionの施設で重要な研究を行っています

 

Dr. Şerife Yerlikayaは、Sophion Reserach Grantを活用し、Nav1.7電流に対する化学療法薬の研究を行い、オートパッチクランプ技術を使用することでナトリウムチャネルとがんに関する研究をさらに深化させています

Istanbul Medipol Universityの助教授であるDr. Şerife Yerlikayaは、現在コペンハーゲンのSophionラボにて、当社上級研究員のKim Boddumと共に研究を行っています。

私たちは、コペンハーゲンに滞在中のŞerife氏の研究と目的について対談しました。

Sophionの研究室で取り組んでいる内容について簡単に説明していただけますか?

私たちの目的は、Sophionのハイスループット・オートパッチクランプ技術を使用して、非小細胞肺がんおよび小細胞肺がんで高発現することが知られているNav1.7に対する白金を用いた化学療法薬の作用を明らかにすることです。

あなたが最初にこのイオンチャネル研究の分野に足を踏み入れたきっかけは何だったのですか?

実は全くの好奇心からで、博士論文で乳がん細胞のアポトーシス(プログラムされた細胞死)に対する薬剤の組み合わせの効果について研究したことが始まりでした。私は、睡眠導入剤のひとつがアポトーシスのメカニズムを引き起こし、限定的な毒性のままでトリプルネガティブ乳がん細胞の転移能力を低下させていることを発見しました。それから私は、睡眠導入剤の作用とがん転移の背後にあるメカニズムについて疑問を抱くようになりました。この好奇心から、私は「神経科学」アプローチによってがん転移と従来の化学療法の背後にあるメカニズムを理解しようと試みるようになりました。つまり、イオン輸送タンパク質の研究を始めたのです。これをきっかけに、生体電気とがんについて考えるようになりました。

研究を進める中で、予期せぬ発見はありましたか?

英国York UniversityのWill Brackenburyの研究室でポスドク研究員として研究していたときに、予期せぬ発見がありました。私たちはパクリタキセル化学療法薬の研究に取り組んでいました。パクリタキセルは、高濃度では神経障害、発熱などの副作用があり、患者にとって致命的となる可能性もあります。私たちはパクリタキセルを500 pM(ピコモルは、がん細胞の実験を行うには非常に低い濃度)にすると、トリプルネガティブ乳がん細胞における一過性および持続性のナトリウム電流が減少することを発見しました。そこで、非毒性濃度でがん患者により効果的な可能性がある化学療法薬の転用について考えるようになり、既存の治療法を改善する将来のプロジェクトのアイデアを思いつきました。

克服すべき課題や、習得が必要な技術はありましたか?

私にとって最初の大きな壁は、マニュアルパッチクランプの操作の習得でした(初期の数か月間を思い出すと、今でも涙が出ます)。この複雑な技術の習得は、私にとって大きなステップでした。パッチクランプ電気生理学者であればご存知のことですが、同時に多くの操作をしなければなりません(振動、陽圧の維持、ピペット内の気泡、良好なシールを確保するための課題など)。記録中に誰かが近くを歩き回ったりすると、気が遠くなりそうでした。記録中は世界が止まってほしいと願ったほどです。マニュアルパッチクランプには多くの問題がありますが、私はラッキーで、Brackenburyの研究室で良い装置とスタッフに恵まれました。

2つ目の大きな課題は、電気生理学実験中の溶液の灌流を習得することでした。初めてそのアッセイを見たとき、「パッチクランプでナトリウム電流に対する実験をするのは不可能だ」と思いました。なぜなら高いシール抵抗を得てホールセルを形成してから、ナトリウム電流の記録に物理的な影響を及ぼすことなく、薬物で細胞をウォッシュしなければならないからです。時には、私の精神が打ち砕かれるか、細胞を破壊するか、紙一重の状況でした!

困難なマニュアルパッチ実験に取り組んだことで、オートパッチクランプ技術を用いた新しいアイデア、方法、プロジェクトを思いつくことができました。

  1. 細胞膜と電極をシールする課題を克服し、高品質の記録を実現する
  2. 時間のかかるプロトコルでの作業を排除する
  3. 迅速な薬効試験を実施する
  4. 転移性がんの即時治療戦略を決定する
  5. がん患者に対する化学療法薬の転用を迅速化する (現在進行中である私の研究の最終目標)

 

今後数年間の研究プランは?

私は、オートパッチクランプ技術に研究の焦点を絞り、イオンチャネル研究分野における既存の問題の改善と進歩を目指したいと考えています。この目的のため、革新的な新しいアプリケーションやアッセイの設計・開発も行いたいと思います。

Sophionへようこそ、Şerife さん。当社のResearch Grantによる研究の成功をお祈りしています。

Dr. Şerife Yerlikayaのナトリウムチャネルとがんに関する研究について、詳しくはこちらをご覧ください。